第5回グラミー賞 総合部門を深堀り — トニー・ベネットが ROTY、コメディ盤『The First Family』が AOTY | GAJ ヒストリー
第5回グラミー賞は1963年5月15日、シカゴ、ロサンゼルス、ニューヨークの3都市で開かれた。対象は1961年12月1日から1962年11月30日までにリリースされた録音(GRAMMY.com の授賞回ページの記載による)。この回では、ビング・クロスビーに初めての生涯功労賞が贈られている(トップストーリーで紹介)。
総合部門(General Field)を分け合ったのは、サンフランシスコを歌ったバラードと、大統領一家をネタにしたコメディ・アルバムだった。アルバム・オブ・ザ・イヤー(AOTY)、レコード・オブ・ザ・イヤー(ROTY)、ソング・オブ・ザ・イヤー(SOTY)、最優秀新人賞の4部門を、受賞作とノミネートから読み解く。
アルバム・オブ・ザ・イヤー:Vaughn Meader『The First Family』
クラシック以外の AOTY は、ヴォーン・ミーダー(Vaughn Meader)の『The First Family』。当時のケネディ大統領一家の暮らしをパロディにしたコメディ・アルバムで、ミーダーは同じ作品でコメディ部門も受賞した。プロデューサーとしてボブ・ブッカー(Bob Booker)とアール・ダウド(Earle Doud)がクレジットされている。第3回のボブ・ニューハートに続いて、コメディ盤が AOTY を獲ったのはこれが2度目だった。
ノミネートは次の5作。
★ Vaughn Meader『The First Family』
Tony Bennett『I Left My Heart In San Francisco』
Stan Getz, Charlie Byrd『Jazz Samba』
Ray Charles『Modern Sounds In Country And Western Music, Vol. I』
Allan Sherman『My Son, The Folk Singer』
アラン・シャーマン(Allan Sherman)の『My Son, The Folk Singer』も、フォークソングの替え歌で笑わせるコメディ盤。AOTY の候補にコメディ作品が2つ並んだのは、GRAMMY.com によればグラミーの歴史でこの回だけだ。一方で、スタン・ゲッツとチャーリー・バードの『Jazz Samba』はボサノヴァをジャズの編成で録音した1枚、レイ・チャールズはカントリーの曲を自分の歌で録り直した1枚で、どちらもジャンルをまたいだ作品だった。なお、クラシックの AOTY はウラディミール・ホロヴィッツの『Columbia Records Presents Vladimir Horowitz』が受賞している。
レコード・オブ・ザ・イヤー:Tony Bennett「I Left My Heart In San Francisco」
ROTY はトニー・ベネット(Tony Bennett)の「I Left My Heart In San Francisco」。ベネットは同じ曲で男性ソロ・ボーカル部門も受賞し、伴奏の編曲を手がけたマーティ・マニング(Marty Manning)も編曲部門(Best Background Arrangement)を受賞した。歌と編曲の両方が評価された1曲になった。
★ Tony Bennett「I Left My Heart In San Francisco」
Stan Getz, Charlie Byrd「Desafinado」
Joe Harnell「Fly Me To The Moon Bossa Nova」
Ray Charles「I Can't Stop Loving You」
Nat "King" Cole「Ramblin' Rose」
Sammy Davis Jr.「What Kind Of Fool Am I」
6曲のうち2曲がボサノヴァ。「Desafinado」はジャズのソロ・小編成部門を、ジョー・ハーネルの「Fly Me To The Moon Bossa Nova」はダンス向けオーケストラ部門を、それぞれ受賞している。レイ・チャールズの「I Can't Stop Loving You」も R&B 部門を受賞した。ブラジルから届いたリズムが、この年のアメリカの録音にはっきり入り込んでいたことがわかる。
ソング・オブ・ザ・イヤー:「What Kind Of Fool Am I」(Leslie Bricusse, Anthony Newley)
作家に贈られる SOTY は「What Kind Of Fool Am I」。ロンドンで生まれたミュージカル『Stop The World – I Want To Get Off』の曲で、作詞作曲のレスリー・ブリカッス(Leslie Bricusse)とアンソニー・ニューリー(Anthony Newley)の2人が受賞した。GRAMMY.com のクレジットでは、歌い手としてサミー・デイヴィス・ジュニアとニューリー本人が挙げられている。
★「What Kind Of Fool Am I」— Leslie Bricusse, Anthony Newley
「As Long As He Needs Me」— Lionel Bart(歌:Shirley Bassey, Della Reese)
「I Left My Heart In San Francisco」— George Cory, Douglas Cross(歌:Tony Bennett)
「My Coloring Book」— Fred Ebb, John Kander(歌:Sandy Stewart)
「The Sweetest Sounds」— Richard Rodgers(歌:Peggy Lee)
ROTY を獲った「I Left My Heart In San Francisco」も SOTY の候補だったが、作家の賞は別の曲に渡った。録音として最も評価された曲と、曲として最も評価された曲が分かれた回だ。また、ライオネル・バートの「As Long As He Needs Me」もロンドン発のミュージカル『Oliver!』の曲で、5曲のうち2曲をイギリスの作家が書いていた。
最優秀新人賞:ロバート・グーレ
最優秀新人賞は歌手のロバート・グーレ(Robert Goulet)。ブロードウェイ・ミュージカル『キャメロット』で知られた歌い手だ。
★ Robert Goulet
New Christy Minstrels
Vaughn Meader
Peter, Paul And Mary
Allan Sherman
Four Seasons
候補にはフォークのピーター・ポール&マリーとニュー・クリスティ・ミンストレルズ、ポップのフォー・シーズンズ、そしてコメディのミーダーとシャーマンが並んだ。ピーター・ポール&マリーは「If I Had A Hammer」でボーカル・グループ部門とフォーク部門を、ニュー・クリスティ・ミンストレルズはコーラス部門を受賞しており、新人賞は逃しても同じ夜に賞を手にしている。
GAJ 視点:海の外から届いた曲とリズム
第5回グラミーの総合部門からは、日本の音楽にとって次の三つが読み取れる。
ROTY の候補6曲のうち2曲がボサノヴァだった。ブラジルのリズムは、アメリカのジャズ奏者と一緒に録音されることで広く届いた。自分たちの国のリズムを、相手の国の演奏者と組んで届ける形は、海外とのコラボレーションを考えるときのヒントになる。
SOTY はロンドンのミュージカルの曲が獲った。アメリカの外で書かれた曲でも、作家の賞は獲れる。効いていたのは、誰が歌い、どこで聴かれたかだった。
ROTY と SOTY が別の曲に分かれた。録音の評価と、曲そのものの評価は別々に動く。だからこそ、作家としての権利(著作権)と録音の権利(原盤権)を、それぞれきちんと整えておくことが大事になる。
笑いのアルバムが年間最優秀アルバムを獲り、ボサノヴァとロンドンのミュージカルが総合部門に並んだ。ジャンルも国も越えたところから評価が生まれた回として、第5回は覚えておきたい。
関連映像
Stan Getz, Charlie Byrd「Desafinado」── 第5回の ROTY 候補曲
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発行:株式会社BRUSH MUSIC / GAJ ヒストリー
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