KZ ワンマンライブツアー「すくわれろ」振替公演 at 渋谷WWW イベントレポート

2021年2月21日、大阪は梅田を中心に活動するラッパー・KZが渋谷WWWにて「ワンマンライブツアー振替公演『すくわれろ』」を行った。

当初は昨年の6月に行う予定であった本ツアーは、パンデミックによりあえなく延期。そして9月に行われた振替公演も、大阪東京共に配信という形でのライブに。大阪公演はKZにとって親しみのある会場のnoonで配信が行われたが、東京公演は配信といえども足を運ぶことすらままならなかった現状であった。

その振替として、昨年12月に発表された本公演。なんと場所は、渋谷WWW。一昨年末に自身が所属している梅田サイファーでの全国ツアーで訪れたこの場所に、KZはソロアーティストとして足を踏み入れる事を決意した。

そして本公演後、KZは3月から半年間の日本一周の旅を始めるという。それに伴ったソロ活動休止も既に発表されている。「一生、ラップ,音楽をしたい」と誓うKZにとって、より高く飛ぶ為に不可欠な助走なのだろう。

ならば本公演は、休止前最後の全力疾走だろうか。KZのキャリアにとって大きな節目となる挑戦であり集大成。昨年行った配信という形では伝えきれなかった言葉と音と共に、一つのフェーズのクライマックスをオーディエンスは見届けることとなる。

その一部始終を、振り返っていきたい。                                  文・編集 kyotaro yamakawa

写真 maOtsuka






定刻17時開場。 まずオーディエンスを迎えるのは、KZと共にバックDJとして苦楽を重ねてきたDJ SPI-K。昨年は自身の仲間の音源をSPI-Kの視点からまとめたMIX CD「MARZEL」を発表している。

日本のHIPHOP史を見つめてきた渋谷という土地で、自分達がやり続けてきた遊び方をそのまま持ってくるかのように日本語ラップをいつも通り紡いでいく。普段と違うのは、皆がKZを待ち構えている事。シリアスな雰囲気で揺れるオーディエンスが印象的であった。

KZが中心であるHIPHOPグループ・梅田サイファーで現在リリース延期となっているアルバム「ビッグジャンボジェット」から未発表の新曲や、「MARZEL」にのみ収録されているKZとDJ SPI-Kがタイトル通り"会いに行く"というメッセージを込めた「あいにいく feat.KZ」もそこに並んだ。



続いて現れたのは、オープニングアクトを務めるテークエム。10年前のKZを語るMCと共に、「超豪華な前座を務めますよ!」と一言。その言葉が表す通り10年で飛躍を遂げた両者。ソロMCとしての研鑽を示すように、一曲目からオーディエンスを盛り上げていく。

テークエムの感情がラップにのって伝播していく。不器用にも優しく伝わったその感情はオーディエンスのネガティブを一枚一枚剥がしていくように、渋谷WWWに響き渡る。 「今日があなたの過ちを笑える日になりますように」。そう言って笑うテークエムから、この後に出てくるKZの存在や音楽性が滲み出した。HRKTのラッパー・Draw4のアルバム「PARADISE」に自身が客演として参加している"人生は突然に"のアカペラの後、pekoをゲストに迎えて披露する"echo feat.peko&テークエム"がオーディエンスの心に明かりを灯していく。

そしてラストに披露したのは、自身の代表曲"Like water"。次第に解かれていくその気持ちのまま、私達は主役を迎える。





出番直前の舞台裏、「めちゃくちゃ楽しみ。通過点やねんけど、一生忘れない舞台になると思う。次は梅田のみんなやTERUとかドロちゃん(Draw4)がここに立ってるのを見たい。」と語ったKZ。

暗転する舞台に一筋のスポットライトが差し、イントロと共に登場した。昨年から続く「すくわれろ」の延期などの経緯を語り、満を持して放つ一曲目は"Breathless"。自身の始まりである1stアルバムのラストトラックを、これからキャリア全てをぶつける自身に向けて呟くように力強く言葉を放つ。 「嗚呼 人生は綺麗」。KZのテーマである人間賛歌が渋谷WWWを包んでいく。



今回のライブは自身の20代〜現在までを振り返るように進んでいくという。 "Same Shit Different Day","始まりのストーリー"。ラップへの愛情に溢れてがむしゃらに走っていた活動当初のKZはその後、ラッパーとしてのアイデンティティを確かめるためにホームである梅田を離れて横浜へと渡る。 人間誰しもにある"分岐点""job"を憂いつつも、その選択肢すら今のKZは肯定していく。



横浜にてアーティストとしての自立を確信したKZは、梅田へと戻る。しかし、環境の変化により心境が徐々に揺らぎ出す。築こうとしていた日常も自身のキャリアも愛する歩道橋や大阪の小箱でさえも、思い描いていた理想やあの頃のままではいられない。憧れていた先輩や仲間との別れ、後輩やルーキーとの遭遇。当時を細かく綴った "29 to 5"や、タイトル通り当時の自身の傷,諦念を込めた"PAiN"を絞り出すよう歌う。

30歳。制作のためスタジオには向かうが、売れず積み上がった1stやライフワークであった梅田歩道橋でのサイファーの凍結、そして仲間の引退など次々と悲しみを目にしたであろうKZ。続くと信じていたその週末を、悲哀に帯びたその時の流れを、手繰り寄せるかのように歌う"TGIF"。KZが感じた当時のシーンの現状と自分自身の環境から導き出した答えは引退,そして浮かんできた死という選択肢。地の底である心境から、それでも音楽を愛したいと心からの想いを吐き出した"Bad day"

KZにとっての最悪の1日をオーディエンスは追体験するように味わっていく。



「仲間達と一緒にクソッタレなシーンにクラシックを作ることに決めたんだよ!」。 何とか這い上がったKZと梅田サイファー、前を向いて力強く掴んだ"決意"と共に会場にも明かりが灯っていく。続いて盟友であるpekoを呼び込んで披露したのは、梅田サイファーの"道の先にある高み"。そして立ち止まらないことを誓った自身や仲間の胸にいつも備わっている"衝動"を高らかに叫んだ。 関係の深い黒衣に自身がRemixで参加した一曲をここで繰り出した。



オーディエンスに、ラッパーがいるかどうか尋ねたKZ。自身と同じラッパー、そして夢を追う者に向けて捧げた"勝ち、続く"。積み重ねを繰り返して渋谷WWWに立つKZからの鼓舞、DJ SPI-K渾身のスクラッチも会場を盛り上げた。

続いて"デスプルーフ","Runnin"などアップチューンが続き、先ほどまでの静けさからは一転して会場とオーディエンスのボルテージは最高潮になる。



少し落ち着いた時間帯に入り、ここから後半戦。 MCでは、long a longという大阪の小箱から渋谷WWWまでの経緯をノミと瓶にまつわる話に例えて話す。「俺がここから抜け出す一匹目のノミになりたい」、そうして歌ったのは"昼間の月が薄れていく"。KZのラップミュージックへの愛情と使命感からくる積み重ねについて力強く言葉にしていく。

そしてオープニングアクトを務めたテークエムを迎えて披露したのは、最新作「GA-EN」に収録されている"Talk to Her"。鳴り止まない拍手が優しい言葉を歌った両者を讃える。




本公演のタイトルにもなっている、リスナーからのある手紙を元に生まれた"すくわれろ"。音楽が直接的に人を救うか否か、それを問われたKZが出した答えは自身の音楽をリスナーが生きる為の一つの目的へと変えていくことだった。すくわれろ、すくわれろと切に願って止まないKZの祈りが見る者の感情を伝う。そこから地続きに曝け出した自身の過去へ思いを込めて放つ"Liful is…"。過去の後悔や悲しみすら血肉に変えてKZは進み続ける。




「全員が幸せになってほしいと素直に思う」と呟くように語ったKZ。その思いを表すように歌ったのは、あらゆる人々の人生を彩り肯定していく"norito"。その言葉と音が会場を優しく包んでいく。

改めて日本一周の旅へ渡る理由を話して披露したのは、"俺らまた笑ってる"。本公演で振り返った中にもあった、30代直前に感じたネガティブや自己否定を見事に覆したKZは渋谷WWWで笑っていた。

本編を締めくくるラストトラックは、"ダンスは続いていく"。「すくわれろ All my people!俺は残りの人生をかけて音楽へ感謝して恩返しするから、みんなも付き合ってくれたら嬉しいです!」。 本公演を集大成として終えたと同時に、また通過点になってKZのキャリアはこれからも続いていく。






本編終了後、音声メディアVoicyで毎朝更新されていてKZとpekoがパーソナリティを務める「アマチュアラジオ」の公開収録が始まった。迫真のライブを見せたKZから気の抜けるような笑顔がトーク中には溢れた。

そして彼らが慣れ親しんでいる大阪のクラブ・stompやnoonでの遊び方の魅力を渋谷WWWでも最後まで感じさせるかのように、シークレットで登場したDJ pekoがクローズDJとして締めていく。

仲間や時の流れを感じさせる選曲に、オーディエンスも演者も一体となってこの瞬間を噛み締めていく。未発表の梅田サイファーの新曲まで飛び出し、得も言われぬ感動と興奮の余韻を確かに残して本公演は幕を閉じた。








純真無垢にありのまま生きること、またはそう生きたい人々を肯定していくKZの音楽。 生きる事は苦難の連続である。自分一人の行動では到底解決できないような社会や人間関係とのすれ違い、現代人の大部分の時間を奪う労働や選ぶことすら許されない生まれ持った環境など。”普通”を手にすることすら、本当に難しい。ただ、そんな苦しみや痛みが前提としてある人生において、夢や目標と称してでも懸命に這い上がる事の美しさをキャリアや人生を振り返る形式にした本公演にてKZは正に体現したのだ。 KZのライブは、始まりと終わりの二面性を常に含んでいる。今この瞬間にも終えてしまいそうな焦燥感、そして今からまた何かが始まるような刺激的な躍動感に満ち溢れている。 KZがよく口にする、"いつも通りいつもより良いライブを"。その言葉通り、クライマックスでしか見れない刹那的な輝きをフレッシュに更新し続けていた。一回の舞台と苦楽の瞬間を積み上げてきたKZだからこそ、それを1つのライブに落とし込めるのだろうと本公演で私は強く感じた。 音楽に身を寄せて踊ることは、はぐれ者で頼りの無い我々ができる最高の抵抗と祝福だ。それ以外に何も要らないとさえ思わせてくれる、そんな時間が流れた本公演。振り返ると、あの始まりの歩道橋の円がその象徴なのかもしれない。梅田で生まれた円は、時に輪となり楕円となりこれから幾度も形を変えてあらゆる人々を包んでいく事だろう。彼らの音楽が持つ普遍性の強度は実に凄まじい。 少しでもシンパシーを感じるならば、日本一周の旅やそれを終えたKZと梅田サイファーの今後の動向を見届けてほしい。                                  文・編集 kyotaro yamakawa

写真 maOtsuka

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