第3回グラミー賞 総合部門を深堀り — コメディ盤が AOTY、ボブ・ニューハートの2冠と映画音楽が制した夜 | GAJ ヒストリー
第3回グラミー賞は1961年4月に開かれた。対象は1959年9月1日から1960年11月30日までにリリースされた録音(GRAMMY.com の記載による)。前回初めて実現したテレビ放送はこの回では行われず、受賞者は非公開の夕食会の場で発表された。グラミーが再びテレビに戻るのは、もう少し先のことになる。
この回の総合部門(General Field)は、4つのうち2つを1人のコメディアンが獲り、残る2つを映画の曲が獲るという、少し変わった結果になった。アルバム・オブ・ザ・イヤー(AOTY)、レコード・オブ・ザ・イヤー(ROTY)、ソング・オブ・ザ・イヤー(SOTY)、最優秀新人賞の4部門を、受賞作とノミネートから読み解く。
アルバム・オブ・ザ・イヤー:Bob Newhart『The Button-Down Mind Of Bob Newhart』
AOTY に選ばれたのは音楽のアルバムではなく、コメディアンのボブ・ニューハート(Bob Newhart)のステージを収めたコメディのライブ録音だった。コメディ・アルバムが AOTY を受賞したのは、いまのところこの1作だけだ。ニューハートは同じ夜に、続編『The Button-Down Mind Strikes Back!』で最優秀コメディ・パフォーマンス(スポークン・ワード)も受賞し、最優秀新人賞と合わせて3部門を手にした。
ノミネートは次の6作。
★ Bob Newhart『The Button-Down Mind Of Bob Newhart』
Harry Belafonte『Belafonte Returns To Carnegie Hall』
Sviatoslav Richter『Brahms: Concerto』
Frank Sinatra『Nice 'N Easy』
Erich Leinsdorf『Puccini: Turandot』
Nat "King" Cole『Wild Is Love』
リヒテルのブラームスはピアノ協奏曲部門を、ラインスドルフの『トゥーランドット』はオペラ部門を同じ夜に受賞している。クラシックの名盤、カーネギー・ホールのライブ、シナトラとナット・キング・コールのポップ・アルバムを抑えたのが、笑いの録音だった。
レコード・オブ・ザ・イヤー:Percy Faith「The Theme From A Summer Place」
ROTY はパーシー・フェイス(Percy Faith)とそのオーケストラによる「The Theme From A Summer Place」。映画『避暑地の出来事』(A Summer Place)のためにマックス・スタイナーが書いたテーマ曲をオーケストラで録音したインストゥルメンタルで、日本では「夏の日の恋」の邦題で親しまれている。
★ Percy Faith「The Theme From A Summer Place」
Elvis Presley「Are You Lonesome Tonight?」
Ray Charles「Georgia On My Mind」
Ella Fitzgerald「Mack The Knife」
Frank Sinatra「Nice 'N Easy」
エラ・フィッツジェラルドの「Mack The Knife」は、前回ボビー・ダーリンが ROTY を獲った曲と同じ曲だ。同じ歌が歌い手を変えて2年続けて候補に入った。エラはこの録音で女性ボーカル部門を受賞している。レイ・チャールズは ROTY を逃したものの、「Georgia On My Mind」などでこの夜4部門を受賞した。
ソング・オブ・ザ・イヤー:「Theme From Exodus」(作曲 Ernest Gold)
作家に贈られる SOTY は、映画『栄光への脱出』(Exodus)のテーマを書いたアーネスト・ゴールド(Ernest Gold)。ゴールドは同じ映画のサウンドトラックでも受賞した。
★「Theme From Exodus」— Ernest Gold
「He'll Have To Go」— Audrey Allison, Joe Allison, Charles Grean
「Nice 'n Easy」— Alan Bergman, Marilyn Bergman, Lew Spence
「Second Time Around」— Sammy Cahn, Jimmy Van Heusen
「Theme From A Summer Place」— Max Steiner
5曲のうち2曲が映画のテーマ曲。ROTY の受賞曲も映画の曲だったから、この年の総合部門では、映画と一緒に届いた音楽が二つの部門を制したことになる。
最優秀新人賞:ボブ・ニューハート
2年目を迎えた最優秀新人賞もニューハートが受賞し、AOTY との2冠になった。候補には、ジャンルも出身もばらばらの5組が並んだ。
★ Bob Newhart
Miriam Makeba
Leontyne Price
Joanie Sommers
The Brothers Four
南アフリカ出身の歌手ミリアム・マケバ、同じ夜にクラシックの声楽部門を受賞したオペラ歌手レオンタイン・プライス、ポップ歌手のジョニー・ソマーズ、フォーク・グループのブラザーズ・フォア。コメディアンも含めて、異なる世界の新人が一つの枠で比べられた。
GAJ 視点:映像と一緒に届く音楽
第3回グラミーの総合部門からは、日本の音楽にとって次の三つが読み取れる。
ROTY と SOTY を映画の曲が獲った。映像作品と一緒に届いた曲は、聴く人の輪が一気に広がる。アニメや映画、ドラマの主題歌が海外への入口になっている日本の音楽にも、そのまま通じる話だ。
AOTY は音楽ではなく話芸の録音だった。グラミーは「録音作品」に贈られる賞で、何を録音して届けるかの幅は思っているより広い。
同じ「Mack The Knife」が歌い手を変えて2年続けて候補に入った。一つの曲は、新しい録音を得るたびに何度でも評価の場に戻ってこられる。作家にとっての曲の価値は、最初の録音だけで終わらない。
テレビ中継のない静かな夜に選ばれたのは、映画館やナイトクラブで人々が出会った録音だった。どの場所で、どんな形で聴き手に届くか。その設計まで含めて作品が評価されることを、第3回は示している。
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発行:株式会社BRUSH MUSIC / GAJ ヒストリー
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