第2回グラミー賞 総合部門を深堀り — シナトラ『Come Dance With Me』と「Mack The Knife」、初代新人賞ボビー・ダーリン | GAJ ヒストリー
1959年11月29日、NBC の「Sunday Showcase」枠でグラミー賞の特別番組が放送された。第2回グラミー賞は、グラミーが初めてテレビに乗った回だ。受賞者はロサンゼルスとニューヨークで開かれた非公開の夕食会で発表され、出席者はそのあとで番組の放送を見たという。司会はメレディス・ウィルソン(Meredith Willson)。対象は1959年1月1日から8月31日までにリリースされた録音で、第1回(1959年5月)からわずか半年あまりでの開催だった。
この回で最優秀新人賞(Best New Artist)が新設され、総合部門(General Field)が初めて4部門そろった。のちに「Big 4」と呼ばれる形の出発点だ。本稿では、アルバム・オブ・ザ・イヤー(AOTY)、レコード・オブ・ザ・イヤー(ROTY)、ソング・オブ・ザ・イヤー(SOTY)、最優秀新人賞の4部門を、受賞作とノミネートから読み解く。
アルバム・オブ・ザ・イヤー:Frank Sinatra『Come Dance With Me』
第1回で『Come Fly With Me』と『Only The Lonely』の2作が候補入りしながら受賞を逃したフランク・シナトラ(Frank Sinatra)が、半年後に AOTY を手にした。ビリー・メイ(Billy May)の編曲によるスウィング作で、シナトラは表題曲で最優秀男性ボーカル・パフォーマンスも受賞。ビリー・メイも同作で最優秀編曲賞を獲り、1枚のアルバムが3部門を制した。
ノミネートは次の5作。
★ Frank Sinatra『Come Dance With Me』
Harry Belafonte『Belafonte At Carnegie Hall』
Henry Mancini『More Music From Peter Gunn』
Van Cliburn, Kiril Kondrashin『Rachmaninoff Piano Concerto No. 3』
Robert Russell Bennett『Victory At Sea, Vol. I』
前回の受賞者マンシーニは『Peter Gunn』の続編で、ヴァン・クライバーンは2年続けて候補入りした。ハリー・ベラフォンテはカーネギー・ホールでのライブ盤で、ロバート・ラッセル・ベネットはテレビのドキュメンタリー・シリーズ『Victory At Sea』の音楽で名を連ねた。ライブ録音、クラシック、テレビの音楽。第1回と同じく、ジャンルを横断した顔ぶれだった。
レコード・オブ・ザ・イヤー:Bobby Darin「Mack The Knife」
ROTY はボビー・ダーリン(Bobby Darin)の「Mack The Knife」。もとはクルト・ヴァイルとベルトルト・ブレヒトが1928年に書いたドイツ語の劇『三文オペラ』の一曲で、英語の歌詞で歌われたダーリンのスウィング版が1959年の大ヒットになった。
★ Bobby Darin「Mack The Knife」
Elvis Presley「A Fool Such As I」
Frank Sinatra「High Hopes」
Andre Previn「Like Young」
The Browns「The Three Bells」
ザ・ブラウンズの「The Three Bells」も、フランスのシャンソン「Les trois cloches」に英語の歌詞を付けた曲だ。5作のうち2作が、ヨーロッパの歌を英語で歌い直した録音だった。前回の ROTY がイタリア語のままの「Volare」だったことと並べると、言葉の壁の越え方が一つではないことが見えてくる。
ソング・オブ・ザ・イヤー:「The Battle Of New Orleans」(作詞・作曲 Jimmy Driftwood)
作家に贈られる SOTY は、ジミー・ドリフトウッド(Jimmy Driftwood)の「The Battle Of New Orleans」。1815年のニューオーリンズの戦いを題材にした曲で、ジョニー・ホートン(Johnny Horton)の録音は同じ夜に最優秀カントリー&ウェスタン・パフォーマンスを受賞している。
★「The Battle Of New Orleans」— Jimmy Driftwood
「High Hopes」— Sammy Cahn, Jimmy Van Heusen
「I Know」— Edith Lindeman, Karl Stutz
「Like Young」— Andre Previn, Paul Francis Webster
「Small World」— Stephen Sondheim, Jule Styne
スティーヴン・ソンドハイムとジュール・スタインの「Small World」はブロードウェイ・ミュージカル『ジプシー』の曲で、ジョニー・マティスが歌った。名だたるソングライターを抑えたのは、アメリカの歴史を物語る素朴な一曲だった。
最優秀新人賞:初代はボビー・ダーリン
この回で新設された Best New Artist の初代受賞者もボビー・ダーリン。最初の新人賞の受賞者が、同じ夜に ROTY も獲ったことになる。
★ Bobby Darin
Edd Byrnes
Mark Murphy
Johnny Restivo
Mavis Rivers
GAJ 視点:言葉の越え方は一つではない
第2回グラミーの総合部門からは、日本の音楽にとって次の三つが読み取れる。
第1回は原語のままの曲が、第2回は英語で歌い直された欧州の曲が ROTY を競った。母語のまま届ける道と、現地の言葉で歌い直す道。日本の曲にも両方の選択肢がある。
AOTY のアルバムは編曲賞も受賞した。歌い手だけでなく、編曲やエンジニアリングを含む制作チーム全体が評価の対象になる。
新人賞が生まれ、新しい才能を顕彰する枠ができた。総合部門は作品だけでなく、アーティストを世に紹介する場にもなった。
テレビ放送が始まり、新人賞が生まれた第2回は、グラミーが「業界の賞」から「多くの人が見る賞」へ踏み出した回でもある。その最初の年に評価されたのは、国や言葉をまたいで届いた歌だった。
関連映像
Bobby Darin「Mack The Knife」── 第2回 ROTY 受賞曲(1959年5月31日『エド・サリヴァン・ショー』出演時)
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