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MUSIC AWARDS JAPAN と日本の世界進出戦略|数字で見る転換点【WELCOMEMAN音楽ビジネス研究所 #6 最終回】

  • 37 分前
  • 読了時間: 7分

音楽ビジネス研究所シリーズの最終回。テーマは「日本の音楽は、どうやって世界に出るのか」。2025年に始まった音楽賞 MUSIC AWARDS JAPAN、国が掲げる海外売上目標、韓国・米国との構造の違い、そして株式会社BRUSH MUSIC が運営する GAJ(The Association Japan)の位置づけまで、確認できる事実と数字だけを使って整理します。

この回の内容(シリーズ最終回)

  1. MUSIC AWARDS JAPAN とは — 業界5団体が共同で立ち上げた音楽賞

  2. 何が「転換点」なのか — 数字で確認する

  3. 国内市場から世界へ — 実際に何が起きているか

  4. 韓国・米国と比べて何が違うのか

  5. GAJ(The Association Japan)の位置づけ

  6. 個人クリエイターが世界に出るための道筋

1. MUSIC AWARDS JAPAN とは — 業界5団体が共同で立ち上げた音楽賞

まず名称を正確に。正式名称は MUSIC AWARDS JAPAN(略称 MAJ)で、AWARDS は複数形です。主催は一般社団法人カルチャーアンドエンタテインメント産業振興会(CEIPA)。2024年10月に設立が公表された団体で、構成は次の5団体です。

  • 日本レコード協会

  • 日本音楽事業者協会

  • 日本音楽制作者連盟

  • 日本音楽出版社協会

  • コンサートプロモーターズ協会

第1回は2025年5月、ロームシアター京都で開催されました。授賞式は NHK で生中継されると同時に YouTube で世界へライブ配信されています。第2回にあたる2026年は6月13日、会場を東京の TOYOTA ARENA TOKYO に移して開催されることが発表されています。

審査の仕組みも既存の音楽賞とは設計が異なります。投票メンバーは約5,000人規模。楽曲部門にエントリーされた作品のアーティスト、作詞・作曲・編曲に関わったクリエイター、チャート実績に基づいて選ばれたアーティスト、国内の音楽プロデューサー・マネージャー・エンジニア・音楽評論家などに加えて、海外の音楽賞審査員・クリエイター・プロモーター・ストリーミング事業者といった International Voting Members が組み込まれています。一部部門では Spotify を通じた一般投票も実施されました。

日本レコード大賞のように特定の団体・放送局が主導してきた従来型の賞と比べたときの MAJ の特徴は、次の3点に整理できます。(1) 業界5団体の共同運営であること。(2) 投票母集団に海外の業界関係者が最初から含まれていること。(3) 世界同時配信を前提に設計されていること。「日本の音楽を国内で表彰する」から「日本の音楽を世界に向けて提示する」へ、賞の目的そのものが置き換わっている、という理解が実態に近いと考えられます。

2. 何が「転換点」なのか — 数字で確認する

「歴史的転換期」という言い方には主観が入るので、公表されている数字に置き換えて確認します。

  • 日本は米国に次ぐ世界2位の録音音楽市場(IFPI)。IFPI の Global Music Report 2026 によれば、2025年の世界市場は前年比 +6.4% で総売上が初めて300億ドルを超え、日本市場は +8.9% と成長に回帰しました。

  • 一方、日本レコード協会「日本のレコード産業2025」では、2024年の国内における音楽ソフトと音楽配信の売上高は前年比 2.6% 減の3,285億円でした。

  • 経済産業省が2025年6月にまとめた「エンタメ・クリエイティブ産業戦略」は、コンテンツ産業全体の海外売上高を2033年に20兆円とする目標を掲げています。音楽分野については、この枠組みの中で海外売上1兆円という水準が目標として置かれています。

整理すると、国内市場は世界2位という規模を保ちながら国内での伸びしろは限られており、成長の余地を海外に求める、という方向が政策と業界の双方で明示された、ということになります。MAJ の創設と CEIPA という業界横断組織の設立は、この文脈に置いて読むのが妥当でしょう。実際に「転換点」だったと言えるかどうかは今後の実績次第ですが、少なくとも業界が共通の目標値を持ったのは新しい動きです。

3. 国内市場から世界へ — 実際に何が起きているか

政策目標とは別に、アーティスト側では既に海外での再生が積み上がっています。Spotify が公表した2025年の年間まとめでは、海外で最も再生された日本のアーティストは Ado で、2021年から4年連続で首位だった YOASOBI に代わって1位になったと報じられています。以下、YOASOBI、米津玄師、藤井風、Creepy Nuts が続きます。海外で最も再生された日本の楽曲は Creepy Nuts「オトノケ」で、2年連続の首位とされています。

ここで押さえておきたいのは、これらの多くがアニメ作品とのタイアップやショート動画経由で海外のリスナーに届いている点です。日本語のまま海外で聴かれている——つまり「英語詞にしないと世界に出られない」という前提は、少なくとも現在の配信環境では成り立っていません。本シリーズで扱ってきた DSP の構造やレコード会社の収益構造と合わせて考えると、作品が届く経路そのものが変わったことが分かります。

4. 韓国・米国と比べて何が違うのか

韓国。韓国コンテンツ振興院(KOCCA)の2025年報告によれば、韓国のコンテンツ産業全体の輸出額は約149億ドル規模で、そのうち音楽産業は輸出成長率 +32.4% と全分野で最も高い伸びを記録しています。韓国の特徴は、KOCCA という準政府機関が振興と海外展開支援を統括し、産業政策としてコンテンツ輸出を長期にわたって位置づけてきた点にあります。日本の「2033年 海外売上20兆円」という目標設定は、この官民連携モデルに近い方向を向いていると言えます。

米国。米国には韓国のような国家主導の輸出振興機関はありません。代わりに、世界3大メジャー(UMG / Sony Music Group / WMG)の中核オペレーションと主要なストリーミングサービスが集積し、市場そのものが世界の基準点になっているという構造的な優位があります。英語という言語の優位も大きい。輸出戦略というより、世界の側が米国市場を向いている、というのが実態に近いでしょう。なお、かつて「4大メジャー」と呼ばれた時代の EMI は2012年に分割されており(レコード部門は UMG、出版部門はソニー側へ)、現在は3社体制です。

日本はどちらとも違います。国内市場が単独で世界2位という規模を持っているため、これまで海外に出なくても事業が成立してきました。いま起きているのは、その前提を業界全体で見直す作業である、と捉えるのが素直な見方だと思います。

5. GAJ(The Association Japan)の位置づけ

株式会社BRUSH MUSIC が運営する GAJ の正式名称は The Association Japan です。日本の音楽業界の国際化と、アーティストの世界進出支援を目的とした団体です。

役割は賞の運営そのものではなく、その手前にあります。海外の音楽業界がどういう基準と枠組みで動いているかを日本語で継続的に翻訳・共有し、国内のアーティスト・クリエイター・関係者が世界の前提を踏まえて動けるようにすること。MAJ や CEIPA のような業界横断の枠組みが「産業」の側から国際化を進めるのに対して、GAJ は個々のアーティストと制作者の側から国際化に接続する、という補完的な関係にあります。

活動内容と参加方法は GAJ のページ に掲載しています。

6. 個人クリエイターが世界に出るための道筋

制度や賞が変わっても、個人の側でやることは地味です。優先順位をつけるなら次の5つになります。

  • メタデータを国際基準で整える。アーティスト名の英語表記、クレジット、ISRC、参加者情報。ここが崩れていると海外の DSP やプレイリストで正しく紐づきません。

  • 権利関係を先に整理する。著作権(作詞・作曲)と著作隣接権=原盤権(音源)は別のものです。海外展開の交渉は、この2つがそれぞれ誰の手元にあるかで組み立てが変わります。

  • 数字を自分で見る。DSP の管理画面で、どの国で聴かれているかを確認する。海外の反応は、多くの場合こちらが狙うより先に出ます。

  • 賞やショーケースにエントリーする。MAJ のように国際的な投票母集団を持つ賞は、国内の実績を海外の関係者に見せる機会になります。

  • 英語のプロフィールとプレスキットを常備しておく。声がかかってから作ると間に合いません。

どれも派手ではありませんが、ここを飛ばして海外の話をしても実務は動きません。

シリーズを終えて

本シリーズを通して扱ってきたのは、一貫して「構造を先に理解する」ということでした。レコード会社がなぜあの収益構造になっているのか。メジャー・インディーズ・DIY で何が変わるのか。DSP はどういう論理で動いているのか。最終回のテーマである世界進出も同じで、政策目標や新しい音楽賞の登場それ自体が誰かを世界に連れて行ってくれるわけではありません。枠組みが変わったときに、自分の側の準備が整っているかどうかで結果が分かれます。

全6回、ご視聴・ご購読ありがとうございました。

株式会社BRUSH MUSIC は、映像制作/音楽制作/WEB制作/ライブストリーミング・VOD/イベント/デジタルマーケティング/エージェント業務を手がけています。アーティストの活動支援やエージェント契約については ミュージックエージェンシー を、業界の国際化に関する取り組みについては GAJ(The Association Japan) をご覧ください。

※ 本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、法的・税務的な個別助言ではありません。株式会社BRUSH MUSIC は法律事務所ではありません。記載した数値・日程は執筆時点(2026年8月)に公表されている情報に基づきます。

 
 
 

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